皆様もご承知の通り、リッツはそのホスピタリティの高さでとても有名です。それ故に高いブランド力を維持し、市況にあまり影響されることなく常に高いホテル単価を維持し、高い稼働率を誇っています。




リッツ・カールトンはサービスが良いと言われていますが、なにがそんなに素晴らしいのでしょうか。それを考察するために、まずは電話応対の事例をピックアップしてみました。

普通のホテルにレストランの予約で電話した場合と、リッツにレストランの予約でお電話した時のやり取りをそれぞれみてみます。

▪️普通のホテルに電話した場合

ホテルマン「はい、xxホテルでございます。ご用件をお伺いいたします」

客「もしもし、再来週の土曜日ですがそちらのレストランで3名でランチを予約したいのですが」

ホテルマン「誠に申し訳ございません。ウェブサイトでもご案内をさせて頂いているのですが、レストランの予約係りが夜の9時までの営業となっておりまして(ただいま夜9:35)、本日の営業はすでに終了しております。」

ホテルマン「大変申し訳ございませんが、明日の朝10時以降にまたお電話を頂戴できませんか?」

客「朝10時ですね、承知しました。では明日またかけなおしますね」

ホテルマン「ご不便おかけして申し訳ありません。どうぞよろしくお願いいたします」

 

▪️リッツ・カールトンに電話をした場合

リッツのホテルマン(以後R)「こんばんは、リッツカールトンのXXXでございます。お電話を頂き誠にありがとうございます。いかがなさいましたか?」

客「もしもし、再来週の土曜日ですが、昼の1130からそちらのレストランでランチを予約したいのですが」

R「お忙しい中、わざわざご連絡を頂き誠にありがとうございます。レストランのご予約でございますね。大変ありがとうございます。」

R「あいにくではございますが、レストランの予約課が夜の9時で業務を終了してしまい(ただいま夜9:35)、わたくしのほうでは予約状況を確認できないのです。」

R「大変恐れ入りますが・・・明日こちらから確認させて頂き折り返しのお電話をさせて頂きます。再来週の土曜日xx日、1130から3名様でレストランをご予約をご希望ということでよろしいでしょうか?」

客「はい、間違いありません。よろしくお願いします」

R「では恐れ入りますが、お客さまのお名前と、折り返しの携帯番号をお知らせくださいますか?」

客「xxと申します。携帯番号は090-xxxx-xxxxです。」

R「ありがとうございます、xx様。明日こちらからのお電話をおかけするのにご希望のお時間はございますか?」

客「いえ、いつでも大丈夫です」

R「承知いたしました。それでは明日は午前10時過ぎに予約係りがオープン次第、確認のうえxx様の携帯電話にご連絡をさせて頂きます」

客「はい、よろしくお願いします」

R「xx様、このたびはお電話を頂き大変ありがとうございました。当日お目にかかれることを楽しみにしております。失礼いたします」



上記を見て頂きますと、違いは一目瞭然です。

これを顧客マーケティングの観点から考えてみますと、いくつもの顧客満足のための接客テクニックが随所に駆使されていることが分かります。

①挨拶と良い第一印象の打ち出し

「あいさつ」は非常に重要です。電話でも対面接客でも大変重要です。

あいさつは、人間関係の中でもっとも大切な潤滑油です。そしてサービス業にとってもっとも大切な「第一印象」を構築する上で、あいさつは極めて大きな役割を担う行為です。

気持ちのいい挨拶を毎日心がけ、実践することで、周りの人たちも幸せな気持ちになりますし、自分自身もおおらかな気持ちになれるはずです。

相手が目上であろうと、配下であろうと、社員であろうと、お客さまであろうと、誰であろうと、お互いを敬愛する気持ちをもって、率先して目を合わせてあいさつをする意識が人としてとても大切なことです。社内で朝の挨拶がちゃんとできない会社や組織は潰れるかもしれません。ホスピタリティ実践の第一歩はここからはじまります。

②Noという前に考える

受付が閉まってしまっているからと言って「できない」といわない、それがリッツです。代替案=明日折り返す、ということを提案することでお客さまの期待に応えるように努めています。

プロが選ぶ日本の宿で1位を取り続けている加賀屋に取材に行った時のインタビューの時の話ですが、今は「No」と言わない、ということを逆手にとって無理難題を仰るお客さまが多くなってきたそうです。

出来ないものは出来ない、これは仕方がないことです。しかし、そこで「出来ません。申し訳ありません」と終わらせないところが、トップがトップたる理由です。

常にNo という言う前に、お客さまのご要望の内容を今一度確認し、何らかの代替手段をご提案するようにしているそうです。

ディズニーでの関連した実話エピソードがあります。



ディズニーランドのジャングルクルーズが大好きなお子さんを持つ御家族がいました。そのお子さんはジャングルクルーズのとある船長さんが大好きで、必ずその人が担当になるまで待って乗船していたそうです。ある日、いつものようにあこがれの船長さんに乗るためにその子はずっと待っていましたが、いっこうに船長さんは現れません。不思議に思ったお母さんは、近くの別の船長さん役のキャストに、あの船長さんはどこにいるのか訪ねたところ、今日は不在だということでした。それを聞いたお母さんは子供に今日はあの船長さんはいないと伝えると、非常に悲しそうな顔をしましたが、お休みなのは仕方ないということでその日は諦めました。それを見ていたキャストが子供のところに寄ってきて話しかけました。「あの船長さんはアフリカのジャングルに新しい動物を探しに旅にでたんだよ。君の為に、きっともっと素敵な動物を連れてくるから、それまでは僕がジャングルを一緒に案内してあげるからね!」と言って、自分の船に案内してくれたそうです。クルーズの後、そのキャストはお母さんのところに来てそっと話かけました。「実はあの船長は退職したのです」。お母さんは子供の気持ちを大切にしながら、夢を壊さないようにと配慮をしてくれたそのキャストの優しさに、その場で涙を流したそうです。

退職してもう会うことができない船長さんの代わりに、とっさの一言により自分自身でその子の為の新しい船長になってあげる、という代替案でお客さまの心を掴んだ事例だと思います。

心理学的にも「Yes and」とか「Yes but」という手法があります。まずは相手に共感を示したうえで、次の話をしたほうがスムーズにいく、という心理学テクニックです。

よくあるパターンで、自分の知識をひけらかしてご満悦になる人がいます。こういう人は、相手がいうことに対して、とにかく自分の存在を示したくなってしまい「でも、xxxではないか?」「そうじゃない、こうだ」といった方向で話をしてしまいます。しかし、基本的にこのパターンのコミュニケーションをする人は、周りの人から空気が読めないと思われ嫌われてしまい、そうなると周囲は心を閉ざし、一切のコミュニケーションをとらなくなってしまうのではないでしょうか。

たとえお客さまが間違っていても、ワンクッションおいて「お気持ち、お察しします」という表現をお伝えすることが、その後の話が交渉には有効なツールとなります。

Noという前に、相手の意見を否定する前に、ワンクッションおいて相手の気持ちに寄り添う(姿勢を見せる)こと、これが結果として相手が自分に歩み寄ってくれる「急がばまわれ」になるのだと考えます。



③By Nameの徹底

顧客満足にもっとも有効なテクニックは、お客さまの名前を呼ぶBY Nameでの接客です。自分の名前を呼んでもらったお客さまは、自分を個別の一人として認識してもらっていると感じ、満足度を感じます。

実際は接客のプロでなければこういうテクニックには気づかないのですが、その効果は必ずボディブローのようにお客さまに届いています。

今回のリッツのケースでも、名前を把握した瞬間から、さりげなくBy Nameを徹底しています。さすがだと思います。

お客さまの名前は、お客さまの顔そのものです。お名前を覚えている、というだけでお客さまは本当に嬉しいものです。

したがって、名前を間違えるのは論外として、たとえば飛行機のビジネスクラスのウェルカムの御挨拶時、明らかに直前に紙を見たうえで挨拶をに来るところをお客さまが見れば、この客室乗務員は自分の名前を覚えていないのだな、ということが即座に分かってしまい大きな不快感を与える可能性があります。

当然、全てのお客さまのお名前を覚えることは不可能ですが、たとえば1回のフライトあたり、自分が担当するエリアの10名だけのお名前は必ず覚え、ことあることにお名前で呼んでみるといった工夫を全員が行ってみたらどうでしょうか。これによりすべてのお客さまの満足度はかならずや向上することでしょう。

エアラインのサービス品質の格付けを行っていることで有名なSKYTRAX社でも、この名前で呼ぶこと=「BY NAME」の実践・徹底は最重要項目として行うべきだとエアラインに対してアドバイスをしており、最高ランクである5スターエアラインでは、ビジネスクラス以上では全旅客に対して常にBY NAMEを徹底しています。

5スターであるシンガポール航空にのビジネスクラスでは、サービス中はもちろんのこと、エコノミークラスからビジネスクラスのサービスの応援にきた客室乗務員もBY NAMEを徹底しています。



ちなみにリッツカールトンが社員教育にて説明をしている「サービスの基本3ステップ」をご紹介します。

1.あたたかい、心からのごあいさつを。お客様をお名前でお呼びします

2.一人一人のお客様のニーズを先読みし、おこたえします

3.感じのよいお見送りを。さようならのごあいさつは心をこめて。お客様のお名前をそえます

しっかりとバイネームが入っています。

航空会社の顧客満足の打ち手として国内線ファーストのミールを良くするとか、ジュースの種類とか、機能価値の議論ばかりがなされることがあります。

そこで、そういった機能価値に頼る議論はやめて、このバイネームの徹底による感情価値の提供についてのサービス向上施策を打ち出しました。

クラスJのドリンクサービスでさりげなくお名前を呼ぶように、というシンプルな施策でした。でもお客さまの心に触れるサービスになるはずという発想です。

機内で一生懸命サービスをされながらバイネームをされているのを見ると、とても温かい気持ちになれます。

必要最低限の機能や設備の提供は大前提ですが、顧客満足というのはやはり最後はヒューマンサービスの部分で決定的な違いを生むのだと思います。

たくさんのホテルができつつある浦安市ですが、ホスピタリティ溢れる素敵な街になっていけばと思います。