2015年に新しいフル規格新幹線である北陸新幹線が開業しました。鉄道ファンとしては嬉しい限りです。今回は新幹線の営業上の不思議について調べてみました。




開業前にも、開業準備中の上越高田駅を見に行ったり、マニアックなことを致しました。

対象がなんであれ、自分が大好きになれるものを持つことは、素晴らしいことだと思っています。

鉄道に興味のないにとっては単なる時間消費でしかない新幹線の移動も、鉄道ファンにとっては新幹線のモーターの音や、線路の上を走る音、風を切る音、電圧装置の音、過ぎ去る景色、そんな鉄道に乗っている1秒1秒が幸せの時間になるわけで、人の何倍も生きていることを楽しめます。

ところでなぜ東北/北陸/上越新幹線は、東海道新幹線に直通運転をしないのでしょうか。不思議に思い、調べてみました。




まず、鉄道の基礎知識として、日本の電気は交流電流で電気の流れが一定時間ごとに切り替わるのですが、この切り替わる回数を周波数:Hz(ヘルツ)といいます。

そしてこの東日本と東日本で周波数が違うのです。東が50Hz、西が60Hzです。

東海道新幹線では、もともと西へ延伸することが分かっていたので、東京まですべて60Hzに統一して電源供給を行っています。

したがって、当初は東日本の50Hz電気には東海道新幹線は対応できず、直通は無理、ということになります。

しかし、長野新幹線の登場で、軽井沢以降で電圧が60Hzに変わってしまうため、JRは50/60Hz両方を走行できる車両を開発しました。

これにより、この新幹線車両は全国どこでも走れるようになりました。

そして、東京駅も現在は線路は繋がっていませんが、隣同士ですので線路を繋げることはさほど難しくないでしょう。

東海道新幹線とJR東の新幹線が直通しない理由は、もはや技術的・物理的な理由ではありません。

この直通しない理由はといいますと、営業上の理由から直通の判断は見送られていると思われます。その理由とは

① ほとんどの旅客が東京駅で降りるため、直通のニーズがない

② ニーズがない割に、直通をさせた時のリスクは非常に高い

があげられます。

①は言うまでもなく大都会東京ですので、ほとんどのお客さまは東京で降りてその先にはいきません。

そんな需要の中で、直通運転をすべきかどうか、ということになるのですが、この直通運転にはとても大きなリスクがあります。

そのリスク故に、直通運転は見送られています。

そのリスクとは、「バタフライ効果」であると考えられます。




東海道新幹線は最大で3分に一本の新幹線が発車します。

30秒遅れるだけでもダイヤには大きな影響ですし、

そもそも鉄道のダイヤは分単位ではなくて、15秒単位で組まれています。

新幹線の運転手はこの15秒ダイヤに従って新幹線を運行しています。つまり2時間25分かけて大阪にいっても、15秒も狂いなく到着しているということです。

日本の新幹線は世界一だと思っているのは、車両開発の技術のみならず、信号システムや安全を守り、これだけ正確なダイヤを維持できているトータルの技術力があるからです。鉄道は早ければいいというものではありません。時間が正確であることは同じか、それ以上にビジネスマンには大切です。

そんな中で、東日本と直通にさせると何がおこるかといいますと、たとえば秋田県の在来新幹線区間に入ってすぐ交通事故がおき、新幹線が停車するような事態になった時に、玉突きで東京まで新幹線が止まります。

そして、今はその影響は東京駅で止まるわけですが、もし直通運転を行っていると、最悪九州まで新幹線は玉突きで動けなくなるリスクを抱えます。

バタフライの起こす風がずっと遠くで竜巻を起こすという「バタフライ効果」が、線路がつながったエリアの鉄道ダイヤでは発生してしまいます。

もちろんイレギュラーが発生した瞬間に、間引きと、途中折り返し運転を使ってダイヤを正常化させるわけですが、これが日本全国に及び非常に回復が困難になります。

したがって、直通運転というのは便利なようで、いざという時のダイヤリスクは脆弱になってしまいます。

便利になった上野東京ラインも便利さの裏にこの問題を抱えています。

もちろん鉄道会社もこのようなことは計算しており、たとえば新横浜で4ホーム作っていますが、

たとえば東京ー新横浜で事故があっても、新横浜で折り返し運転をさせることで、被害を最小限にするなどの対策が行われます。訓練も行われています。




東日本の新幹線でも大宮が開業当時の始発だったこともあり巨大なホーム数を持っていますので対策は可能ですが、

・肝心の東京駅が後で増設したため、ホーム数が少ない

・東京ー大宮間は住民との騒音問題対策での合意により速度が大幅に抑えられており、線路容量(線路上に同時に走れる本数)が少ない

という問題を抱えており、ここの区間はJR東海としてはぜったいに走りたくないのでしょうね。

ちなみにもともとの新幹線計画ではJR東日本系列の新幹線の発着地は新宿となっており、東京駅は実は暫定的取扱いとなっています。

背景には、こんな新幹線の歴史と生い立ちがあると思うと、改めて鉄道は興味深いと感じます。