サービス業の現場にいると毎日必ず色々な類のクレームが発生します。




例えば、空港の現場ではセキュリティチェックは法律で定められていることなのにクレームをして係員を困らせるお客さんもいます。一方で、理解できる部分もあります。羽田では引っかからなかったのに、帰りの伊丹では同じ荷物なのに引っかかったようなケースです。

顧客満足論におけるクレームの意味合いを考えるうえでまず理解すべきとても大切なことがあります。

「クレームをする人は全体のわずか5%程度」という事実

クレームの中身を統計をとって一生懸命分析している会社や部署もあろうかと思うが、実は水面上に出た氷山の一角だけを見ていて、水面下に全く違う様相があることを見逃している可能性が高いという事です。

日本人は民族的にも真摯で、寡黙で、忍耐強いという特徴があります。故に、多少の不満はぐっと堪えて何も言いません。表に出てきたクレームよりも、むしろ叫ばれない不満こそが真の不満であり、企業はフォーカスしなければならないのです。クレームをする人は声が大きく、ある種少し社会ずれした人も少なくありません。それよりも何も言わず心に不満をためて、何も言わずに去って行ってしまう人の声を拾うことを考えることが企業の利益を守る為に最も大切なことです。

これを表す1つの好事例があります。



JALホノルル線におけるサイレントマジョリティ

深夜に出発するJALのホノルル線では、それまでの国際線の慣例に倣い、離陸後すぐに食事を用意し、日本時間で言えば深夜0〜1時頃に通常の機内食を提供していました。

そしてホノルルに、ハワイ時間の9時頃に着く直前におにぎり程度のスナックを渡すという機内サービスでした。

当面の間このサービスが続けられ、クレームは1つもありませんでした。しかし、このサービス内容に違和感を感じていました。充実した羽田国際線のターミナルで食事をしないで深夜まで耐える人などいるわけがありません。お客さまは食事が出されたから、旅の高揚感も含めて食べているだけじゃないか?と考えました。

クレームは無いからこのままでいいじゃ無いか、という人もいたが、ちゃんと調べるべきだと主張しました。そして、トライアルとして、離陸後は軽食を渡し、到着前に機内食を提供する実証を行うことにしました。

機内食サービスに対する満足度を調べるために機内の全旅客の調査を行ったところ、蓋を開けてみると、なんと93%の人が到着前機内食の方が良い、という結果でした。つまり現行のサービスには不満があるということでした。

この結果を受けて、夜22時以降に出発する便の機内食プロシージャは変更することになったのです。

クレームのみに対応したり、でてきたクレームを分析するのではなく、サイレントなお客さまの心の叫びを拾う必要があります。そのためには、待っているだけの姿勢では何も起こりません。企業が自ら声を拾いに行かなければなりません。



コカコーラの大失敗

アメリカでのペプシvsコークの戦いは有名ですが、ペプシのマーケティングにも小話があります。ペプシはとあるプレゼントキャンペーンをおこないました。

表向きはペプシの商品がもらえる電話キャンペーンだが、実際はコークユーザーを識別し、彼らのコークに対するニーズや意見を拾う仕組みを組み込んでいました。ペプシはサイレントなコークユーザーの声を手に入れることができ、それを元に商品開発を進めることができたわけでした。

一方でコークの失敗事例もあります。ペプシに押され焦ったコークは、新しいコーラの開発を進めニューコークを開発しました。事前にブラインドテストを重ね、ほとんどの人がニューコークの方が美味しいと答えました。そしてそれまでのコークは、全てニューコークに変更されました。

しかし、いざ蓋を開けてみると、アメリカ中で以前のコークを返せ!俺たちのコークを返せ!とデモまで起こる事態にまで発展したのでした。

コークはお誕生日パーティから戦場にまであらゆる場所に届けられ、アメリカのアイデンティティとして飲まれ続けており、味のみならず、コークと共にあった人々の想い出や記憶という感情価値が溢れる商品になっていたからです。

それを無視して機能価値のみに焦点を当てたリサーチをしてしまったが故に、コークは大きな代償を払うこととなりました。結局オリジナルのコークは、コカコーラクラシックとして復活することになりました。

顧客調査、分析は正しい母集団に、適切な質問で調査をかけて行かなければ、むしろ間違った方向に物事を進めてしまう畏れもあります。クレームはチャンスではあるが、活用の仕方は間違えてはいけません。

クレームはチャンスということだけを流布して、理不尽なクレームに時間を使う必要はありません。お客さまの大多数の心の声に耳を傾けるための仕組み、インフラを整えることがマーケターの使命と言えます。