おいしい物はやはり本場は行かないと!ということで、寿司も全国津々浦々、様々なお店にいきました。

札幌、沖縄、そしてもちろん都内。その中でも札幌のお寿司屋さんは一番のお気に入りです。ここはすでに20年近く通うお店になりました。




以前は土日も基本すべて出社するのが当たり前の時がありましたが、ごく稀に土曜日がポコッとお休みになることが金曜日の夜中に判明したりします。

そうなるとそんな急には誰も友達は付き合ってはくれないので、一人で土曜日を過ごすことになります。

そんな時突然札幌行の航空券を購入し、朝一の便で札幌に向かい、そのままこのお寿司屋さんに行き、2時間ほど一人で世界一美味しいと思える寿司を楽しみ、大将との会話を楽しみ、そのまままた東京に戻るということを人生の唯一の楽しみにしていました。

そんなお店には今も数カ月に一度は必ずリピートしています。東京からそのためだけに札幌に行ったりもします。

成功する飲食店がどうして顧客を魅了し、リピーターを確保できるのかについて、このお寿司屋さんを題材に分析をしてみたいと思います。

まず考えるべきことは

商品価値 = 機能価値 + 感情価値

という方程式です。

この機能価値と感情価値の総和である商品価値が、飛行機代+寿司代 よりもはるかに高い価値を持っていると顧客が思えるから、お客さんは何度もそこに足を運ぶのです。

別の言い方をすれば、お客さんにとっては、飛行機代+寿司代 は、このお寿司屋さんでの体験(食事、大将との会話)の価値よりもはるかにお安い買い物であるため、行けば行くほどお得になる、だからリピートするということになります。

それではこのお寿司屋さんの商品価値について分析をしてみたいと思います。



①ポリシーを持った商品設計

このお寿司屋さんの大将は実は「理系」出身です。理系の人間は、仮説を立てて、実験して、その成否を確かめることが大好きな人種です。根っからのPDCA実践派といえます。

さてそんな理系の大将がお寿司屋さんになると、すべてのネタを最高の状態で食べてもらうために試行錯誤し始めてしまうのです。塩辛いものが大好きなので(早死にしそうですが)、寿司に醤油をつけないなど考えられなかったのですが、このお店に来た時だけは一度も醤油さしを使いません。なぜなら、すべてのネタがそのまま食べれば最高の味になるように大将が長年かけて創意工夫をして確立してきた味になっているからです。

さらにネタの握り方も独特です。寿司は好物なのでいままで久兵衛も含めて味わったことがありますが、このお寿司屋さんには足元にも及びません。もちろんシャリの握り方も全く違います。

おそらくこのお寿司屋さんの握り方は、このお寿司屋さんだけの独特の技術だと思います。

いつもお店に行くたびに寿司への拘り、どんな想いで握っているかを熱く語ってくれます。それがまた楽しみです。(ここは感情価値です)

また、日本酒にもプロの拘りが見えます。このお寿司屋さんには日本酒には種類はありません。

大将がこれが一番自分の寿司に合う、という日本酒を厳選して、一つの銘柄を提供しているのです。

寿司屋で日本酒にチョイスがないお店はおそらくここだけではないでしょうか。通常はお酒に選択肢(=機能価値)がないのはマイナス要素ですが、このお店ではなぜこの日本酒に行き着いたのか、どうしてお寿司に合うのかを理論的に説明してくれるので(=感情価値)、その商品価値(=機能価値+感情価値)はむしろ大きく向上しているのでしょう。



②変わらぬクオリティ

初めてこの店に行った時は体に電撃が走るほどの美味しさに感動しました。

そして20年たったいまも、当時見習いでフロアを担当していた青年が今はカウンターに立って握っていますが、あの時の味を常に守り続けています。

ぜったいに味がバラツクことはありません。高いレベルを維持して、一切変わらぬ味を、いつ行っても必ず提供してくれます。

これはお客にとっては最高の安心感であり、またリピートしようという気持ちになるのです。

一度でも味が変わったら、その次に行こうという気持ちは消える可能性が高いです。

顧客満足において、「バラツキをなくす」「高い品質でそれを維持すること」は極めて重要なのです。



③BY Nameの徹底による感情価値の提供

このお寿司屋さんに必ずリピートしてしまうのは、「自分が顧客として大切にされている」と強く感じることができるからです。

その一番の要素が「By Name」の徹底です。

4か月ぶりくらいにお店に入った瞬間に

「xxさん!お帰りなさい!」

と大将が元気よく一言。

「よくお名前覚えていてくださいましたね」

とお聞きしましたら

「大切なお客さまですから」

と一言。感服です。

そしてBY Name に加え、 「いらっしゃいませ」ではなく「お帰りなさい」という一言は心にいつもひびきます。

はるばる東京から来て「帰ってきたなぁ~」としみじみするわけです。

リピーターへの高い配慮も素晴らしいのがこのお店。このお店には、名古屋、福岡からから通い続けてくれる常連さんがいるそうです。

大将が言った言葉でずっと頭に残っている言葉があります。

「自分たちは絶対に広告や旅行雑誌に載せるようなことはしません」

「都内にもお店は出しません」

ビジネスとしては、当然上の二つをやれば利益が上がると思ったので、大将に何故やらないのか聞いた時の大将の返答でした。

なぜ大将はそのように考えているか、それを聞いて私は生涯通い続けようと決めました。

「xxさんのような遠路からお越しくださるお客さまのご予約が取れなくなったら大変ですから」

「都内の仕入れでは魚の鮮度が落ちて、自分たちのクオリティが保てませんので出店しません」

さすがです。これぞ真の顧客満足。

そんなわけでこれからもこのお寿司屋さんに通い続けるのだと思います。

全てのサービス業では、常に

商品価値 = 機能価値 + 感情価値

の方程式に立ち返って考えなければなりません。

どんなに機能価値を高めても、感情価値が毀損するような商品設計では、全体としての商品価値は大きく下がるということです。実際のサービスにおける失敗事例としては、JALにおいて一時、機能価値の一部に意識が向き過ぎて失敗した事例があります。

「食事の盛り付け」という一部の機能価値に拘りすぎて、感情価値、さらにはその他の機能価値が大きく毀損してしまった事例です。

機内での盛り付けに拘ったあまり、乗務員は精神的・時間的余裕がなくなり、食事を出すことに精いっぱいになり、ヒューマンサービスの感情価値はどんどん損なわれ、マイナスの評価となりました。

さらには盛りつけに時間がかかるので食事が冷える、たかだか数種類のコース料理に2時間以上の時間がかかる、というその他の重要な機能価値を劣化させてしまいました。

結果としては当然サービス全体の商品価値は劣化してしまったと考えています。

商品価値を考えるうえでは機能価値は最低限の合格ラインを維持していれば、それ以上には重要ではなく、感情価値がその商品の総合的な価値を左右します。したがって、商品サービスを設計する際には、あくまで感情価値を最大化するために、機能価値をどのように設計しようかというロジックで考えるべきです。

日によって乗務員が違う航空会社のサービスでは、盛り付けのようなバラツキを生むリスクがある設計はやめ、地上のキッチンでキチンと盛り付けて搭載すべきです。それを考えるのが企画者の仕事なのではないかと思います。




部門別採算の名のもとに、各部門が自己の利益の追求に走ってしまう運営になってしまったことが副作用として出てしまったのかもしれません。

確かにイメージ向上につながりますが、機内の状況を知らない単なるレストランのシェフに機内食の企画を委ねるというのは門外漢でしょう。餅は餅屋なので、機内サービスのプロがガバナンスをきかせて商品設計をしなければなりません。

試行錯誤を重ねた末に、最近はその辺りも含めて現場の意見がしっかり反映されるようになったと聞いています。

もとい、纏めますと顧客満足向上のポイントとしては、

・機能価値はバラツキをゼロにしながら、高い品質を保つこと

・そのうえで感情価値を最大化する取り組みを全員で行うこと

こういった体制を整えることが、すべてのサービス業に共通する成功方程式であるといえます。

飲食店を成功させるには食事という機能価値だけでなく、どうやれば感情価値が最大化されるのかを考え、ヒューマンサービスに重きを置いた経営が重要であると考えています。