今回は競争戦略の一つとして有名なランチェスター理論について考察したいと思います。実際にマーケティング戦略を考え実行するにあたり、この考え方を大いに取り入れる場面が多々ありました。



ランチェスター戦略を映画化したといえる「300」

「300」という映画をご覧になられたことはありますでしょうか?この映画はまさに今回ご紹介をしたい「ランチェスター戦略」の活用そのものです。

映画「300」のあらすじは以下の通りです。

紀元前480年。

スパルタの男たちは、服従はしない、退却はしない、降伏はしない。それがスパルタの掟で、スパルタの男たちは、そのように生まれ、そのように育てられた。

そのスパルタ王レオニダス(ジェラルド・バトラー)のもとに千もの国々を征服したペルシア帝国からの遣いがやって来た。次なる標的に定めたのは、スパルタをはじめとするギリシアの地だった。

使者は王の伝言を伝える「水と土地を」と。国を滅ぼされたくなければ、ペルシアの大王クセルクセス(ロドリゴ・サントロ)に服従しろということだ。

「服従か、死か」と問われれば、スパルタの答えはひとつ。

彼らに服従はありえない。王レオニダスがペルシアの使者を葬り去った瞬間、スパルタはペルシア帝国の大軍を敵に回した。

神々に開戦の許しを乞うために、レオニダスは司祭のもとを訪れた。スパルタの法では、決議は託宣者の予言によって決められる。

だが、欲にとらわれた司祭たちは、託宣者のお告げであるとして、スパルタ軍の出兵を禁じた。あろうことか司祭たちはペルシャから賄賂を受け取っていた。

託宣者の信託に従えば戦うことは許されない。しかし、戦わなければ滅ぼされる。苦悩する王に、王妃ゴルゴ(レナ・へディー)は「自分の心に従いなさい」と言う。

戦いを決意した王のもとに集まったのは300人。

しかし、それはただの300人ではない。スパルタの精鋭300人だ。

レオニダスには戦略があった。海岸線の狭い山道に敵を誘い込めば、大軍の利点を封じられる。

そこを、スパルタの盾で食いとめる。

作戦の地テルモピュライに兵を進めた彼らの前に現われたのは、海岸線を延々と埋め尽くすペルシアの大軍。

スパルタの男たちはひるまなかった。スパルタの男たちに退却の二文字はない。鍛え抜かれた剣のもと縦横無尽に突き進む。ひとりの死者もなし。一日目はペルシア軍を完膚なきまでに覆し、スパルタ軍の勝利で終えた。



ランチェスター戦略とは何か

ランチェスター戦略とはもともとは軍事目的で戦闘戦略を理論化したものです。

詳細はこちらの本に委ねたいと思いますが、まずは簡単に内容をご紹介します。


第一次世界大戦の頃、イギリス人のエンジニアF・W・ランチェスターは戦闘機の開発に従事していました。

彼は自分が開発した戦闘機が戦争でいかなる成果をあげるのかに興味を持ちます。研究した結果、兵力数と武器性能が一軍の戦闘力となり、敵軍に与える損害量を決めることを発見します。

これがランチェスター法則です。

第一・第二の二つから成り立ちます。

第二次世界大戦のとき、アメリカ軍はランチェスター法則を応用し、戦闘力を敵軍と戦う直接的な力と、敵軍の後方を攻撃し敵が戦争をすることを困難にする間接的な力に分けてとらえます。ランチェスター戦略方程式といいます。コロンビア大学の数学教授であったB・O・クープマンらがオペレーションズ・リサーチ(OR=作戦研究)チームを作り、導きだしました。

戦後、ORはビジネス界へ応用されていきます。フォルクスワーゲン社がカナダに進出した際にもこの考え方が使われたといわれています。

1970年代以降、多くの日本企業もランチェスター戦略を学び、自社流に応用して取り入れ、実践しました。

多くの戦略理論や経営手法がアメリカ生まれであるのに対してランチェスター戦略は原点こそ欧米ですが、ビジネス戦略として体系化づけられたのは実は日本です。ランチェスター戦略とはランチェスター法則、ランチェスター戦略方程式をベースに販売戦略、競争戦略として進化させたものです。イギリスで生まれ、アメリカで育ち、日本でビジネス戦略として花開いたものです。

コンサルタントやマーケターが多かれ少なかれ、この理論の影響を受けてきていることからマーケティング戦略の見本ともいわれます。

オリジナルのランチェスター戦略には2つの法則があります。

ランチェスター法則とは、まったく違う状況を仮定した2つの法則を提唱しました。

それがランチェスターの第一法則と第二法則です。

ランチェスター第一法則

第一法則は局地戦、接近戦、一騎討ち(1対1の戦い)の場合に当てはまる損害量の法則です。

これは互いに刀をもって戦うような、一人で一人しか狙い撃ちできない戦い方の状況で成り立つものです。

ランチェスター第一法則に当てはまる状況から導き出される結論は

戦闘力=武器効率(質)*兵力数(量)

つまり、ランチェスター第一法則においては、戦闘力は「質*量」で表されます。

M軍が5名、N軍が3名で、刀や槍で戦うような1対1の戦いのとき、武器効率Eが同じなら損害量は同じ。

従って、武器効率=刀の性能(例・刀の長さ)が同じ時、M軍5名、N軍3名が戦えば、M軍、N軍ともに3名の損害を出し、兵力が多いM軍が2名を残して勝つということです。

武器効率が同じなら、戦闘力は兵力数に比例することになります。 戦いにおける勝ち負けは、敵と味方の力関係で決まってくることを前提に、この局面で弱者であるN軍が、強者であるM軍に勝つにはどうしたらいいのでしょうか?

それは、武器効率=質を3/5以上高めるか、兵力数=量を5人以上に増やすことです。

武器効率とは、敵と味方の武器性能の比率ですから、武器効率を上げるとは、例えばより長い刀で戦うというようなことになります。

さきにご紹介した300はこの第一の法則の応用です。スパルタは強いので武器効率は非常に高いが数で負けている。だから、狭い極致に誘導することで、兵力数を相手と同数とし、それにより自軍の戦闘力を優位に導いたという事例です。

ランチェスター第二法則

これは広域戦、遠隔戦、確率戦(集団対集団の戦い)の場合に当てはまる損害量の法則です。

ランチェスター第二法則は機関銃のような一人が多数を攻撃できる、 近代兵器(確率兵器)を使った状況で成り立ちます。

ランチェスター第二法則を「集中効果の法則」「二乗の法則」とも呼びます。

ランチェスター第二法則に当てはまる状況から導き出される結論は

戦闘力=武器効率*兵力数^2(二乗)

つまり、ランチェスター第二法則においては、戦闘力は「質*量(二乗)」で表されます。 多数が多数を攻撃する近代的な戦いでは、このランチェスター第二法則が適用されます。

ランチェスター第二法則にしたがえば、武器効率が同じとすれば、戦闘力は兵力数の二乗に比例するとなります。

先ほどと同じ、M軍が5名、N軍が3名で、今度は「機関銃」で撃ち合う戦いのとき、状況は変わります。

ランチェスター第二法則では武器効率Eが同じでも、損害量が二乗比になるわけです。
損害量は、M軍が1/5であたる攻撃を3人から受け、N軍は1/3であたる攻撃を5人から受けることになります。

この損害量を通分して比率を出すと、損害量はM軍:N軍=9:25=3の2乗:5の2乗になるのです。

ランチェスター第二法則の結論は、損害量は相手の兵力数の二乗に比例するとなります。 (生き残る兵力数は、損害量の差をルート)ここから言えることは、近代戦の集団戦闘、広域戦の場合、兵力数が多い方が圧倒的に有利であり、弱者はいくら頑張っても勝つことはできない、ということです。

逆に言うと、ランチェスター第二法則が適用される、広域戦、遠隔戦、確率戦(集団対集団の戦い)の場合には、弱者は必ず負けるので強者と戦ってはいけない、逃げろということです。

これがランチェスター第二法則です。

このランチェスターもある意味当たり前の話なのですが、大切なのはあらゆることを知っておいた上でその時その時で最適な解を選択することだと思います。したがって知識は表面的でも一通り仕入れておくことで、自分を助けてくれる時が来る可能性は高まります。




ビジネスにおけるランチェスター戦略実践例

航空業界で2010年代前半はビジネスクラスの進化、改良ばかりに注目が集まっていました。

新型座席の開発において、エコノミークラスの座席に対して、社内ではそれまでの延長線の設計、すなわちそれまでの狭い座席幅の前提で考えていました、

航空会社の経営は座席の配置議論がその80%といわれているくらい座席数と座席の質でだいたい勝負がつきます。

そんな中、世の中すべてがビジネスクラス座席、フルフラット化に意識が向かう中、あえて「エコノミーで世界一の商品を作るべきだ」と主張しました。今の阿部寛さんのCMのあの座席のコンセプトです。

あの阿部寛さんのCMの座席の導入を1人主張した訳ですが、実は最初はまったく聞いてもらえず四面楚歌状態でした。すでに事前のプレ役員会の決裁まで終わっているから変更は無理だ、と言われていました。

しかし他社に比べブランドが極端に傾いていた中で抜本的なブランド立て直しの戦略が必要であり、それは何らかの形で「世界一をとることしかない」と考えました。

その時、頭の中にあったのが「ランチェスター戦略」の発想でした。

エコノミークラスにフォーカスして、この局地戦で世界一をとる

世間の他のエアラインがあまり注目していないエコノミークラスにフォーカスして、この局地戦で世界一をとる、それが当社のブランドの再興に最も早く最も確実な方法であると考えました。

その時社内ではすでにいわゆる普通の31インチの狭いエコノミー座席とすることが決まりかかっていました。

そんな中でまったく別の主張をしたものですから、はじめは完全に四面楚歌でした。

しかし、そこから機械シミュレーションに頼らず収支や想定リスクをすべてエクセルで計算し、数字で自分の理論の正しさを証明しながら、徐々に賛同してくれる仲間を増やし、数ヶ月をかけて全社的な決定を覆して、「新エコノミー」の設計で役員会決定を通すことができました。

そして、その数年後、このエコノミーは世界的権威のエアライン格付会社であるスカイトラックスから世界一の称号を受賞することになったのです。

近日、スロットの割当が少ないことによる焦燥感から、またエコノミーを狭くして座席数を増やそうという主張が社内で起きているそうです。

商品の改悪がどれほどのマーケティングデメリットを持つか、顧客の理解が不足しているのではないかと心配になります。

日本航空は、顧客第一で物事を考えているのかというマーケターとして最も大切な部分の試金石となるかもしれません。

1980年頃に進化したマーケティング2.0の時代から言われている基本セオリーを、マーケティング1.0、すなわち製品第一主義に退化させてはなりません。

日本航空のファンとしての願いです。

自分を差別化するためのランチェスター戦略

そして、自分自身をビジネスマンとして差別化するためにもランチェスター戦略は参考になります。

日本人は頭が良いので数学や議論は非常に得意です。しかし、なぜか英語だけは苦手な人が多いです。(文法構造が全く逆で、論理思考の順序が反対になってしまうからでしょう)

したがって、英語を強化することで簡単に「使える」ビジネスマンになれます。これもランチェスター第一の法則です。

(ちなみに効率的な英語勉強方法は こちら )

また、これからの時代はgeneralistは淘汰される、スペシャリストを目指すべきだと考えていますが、これもランチェスターです。スペシャリストは戦いを自分の1:1の一騎打ちのフィールドに誘導でき、さらにそこで自分のスペシャリストとしてのノウハウで戦えるからです。逆にgeneralistはそういった場に引き込まれると武器が弱いため、負けてしまいます。

一人の人間としてできることはたかが知れています。だからこそ、限られた脳の容量を駆使し、スペシャリストを目指すべきだと考えています。

とはいえ、経営は総合格闘技のため、スペシャリティは持ちつつもバランスを保った知識と経験の蓄積も必要であることはまた真実です。